日本では、年間約10万人が「介護離職」に追い込まれています。この数字は、5年間ほぼ横ばいで推移しており、改善の兆しが見えません。国としてもこの状況を憂慮し対策を講じているものの、2015年に安部首相が掲げた「新・3本の矢」の一つである「介護離職者ゼロ」は、ほとんど効果が見られないのが現状です。

では、実際に親の介護をしなければならない場面に直面したとき、仕事を辞めてまで介護に専念するのは正しい選択といえるのでしょうか。
親の介護に直面して迫られる選択は、超高齢化社会と呼ばれる現在の日本において、決して他人事では済まされない問題です。

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介護離職者の男女比

総務省の調査によれば、2017年に介護離職者した人は9万9,100人で、4分の3が女性、残り4分の1が男性という結果が出ています。この数字から、介護離職者は圧倒的に女性が多く、男性の実に3倍もの女性が介護による離職を余儀なくされていることが分かります。

また、2018年に公表されたデータによると、介護離職した人の内再就職できたのは全体の43.8%と、半数以上が再就職できていません。別の調査では、再び正社員になれたのは男性が3人に1人、女性が5人に1人の割合となっており、離職した男女比から考えると介護離職を選んだ女性の内かなりの人が再就職に苦慮していることが分かります。

離職するということは、ご自分が働いていた分の収入がすべてなくなるということなので、当然年収は激減します。ご自身の収入がなくなると、期待できる収入は親の財産や年金くらいでしょう。その程度の収入でも辛うじて生活はできるかもしれませんが、その後──介護が終わった後は果たしてどうでしょうか。

介護を終えるということは、ほとんどの場合親を看取ることと同義です。
いざ介護を終え、いざ社会復帰しようとしても、介護が必要になる親の年齢から考えると、介護者本人はおそらく40~50代。転職限界年齢が上がっている昨今でも、離職以前の賃金が確保できる職に就くのは相当に難しいと思われます。

つまり、仕事を辞めて必死に親を介護し精根尽き果てる思いで介護を終えても、その後に残るのは職も収入もあてがない経済的に困窮した介護者ご自身だけなのです。

介護離職は正しい選択か

上述したように、介護離職という選択は、後々のことを考えると決してよい判断とはいえません。事実、認知症になった親を介護するために介護離職した方の多くが、自身の選択を後悔しています。
とはいえ、「仕事と介護の両立は無理」と思う方も多いでしょう。

介護の専門家でもない限り、ほとんどの人が介護経験などないのが普通です。そのため先の見えない介護生活に不安を感じ、仕事を続けることができず介護離職という選択を選んでしまう方もいらっしゃいます。仕事と介護の板ばさみになり、「せめてどちらか片方だけでも解決してほしい」と考えてのことでしょう。

しかし、介護離職を選び介護に専念できたとしても、それは違う問題が先に待っているだけで、将来的に考えると余計辛くなるだけです。

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「介護離職しない」という選択

では、認知症などの理由で親が要介護者になった場合、介護離職以外にどんな選択肢があるでしょうか。

介護離職というのは、仕事を辞めてでも親の介護をするという、すべてを自分で行うという考え方です。しかし、すべてを一人で抱え込む必要はありません。困ったときは、ぜひ「専門家に任せる」という手段を選んでください。

「自分の親なのだから、子供である自分が介護するべき」という考えは当然あると思います。それが責任なのか情なのか、理由は人それぞれでしょう。しかし、親の介護のために以降のご自分の人生を犠牲にするのは、決して良い選択とはいえません。社会的に見ても、年間10万人もの労働力が失われるのは、大きな損失といえます。

そもそも、2000年に施行された介護保険制度は、社会全体で要介護者を支えるために生まれた制度です。その時点で、既に高齢者の介護を個人や家族だけで行うのは限界と思われていました。
制度の成り立ちを考えれば、親の介護を専門家に任せるのは何ら問題ありません。遠慮することも気兼ねすることもなく、もっと気軽に堂々とサービス利用してください。

高齢者の介護は社会全体が担うもの

親の介護に直面した時、介護生活に限界を感じる前に、介護保険制度の利用をご一考ください。

介護保険制度は、要介護状態や要支援状態になった時、1割負担で介護サービスが受けられる保険制度です。40~64歳の医療保険加入者のほか、65歳以上のすべての人が対象となります。
「親の介護は子供がやるべき」などと介護の悩みを一人で抱え込まずに、ご自身の手に余るようなら遠慮なく専門家の力を借りることをお勧めします。

これから先、より一層少子高齢化が進む日本社会において、介護を頼むという考えが広く浸透し、サービスを受けることが当たり前の世の中になってほしいものです。

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